「IRサイトランキング2013」の総括(2)カテゴリスコアから見るIRサイトのトレンド

2013年05月08日

前回に引き続き、「Gomez IRサイトランキング2013」を総括する。今回は、スコアからIRサイト、ならびにウェブIR全般のトレンドをざっくりと把握することを試みたい。

TOP200サイトのカテゴリ評価の変化

以下は、上位200サイトの総合得点、ならびに「ウェブサイトの使いやすさ」「財務・決算情報の充実度」「企業・経営情報の充実度」「情報開示の積極性・先進性」という総合評価を形成する4つのカテゴリごとの平均値をとったものである(当ランキングでは、ランキング上位200サイトをとくにウェブに力を入れている企業と位置づけ、毎年ランキングサイトにて公開している)。

TOP200 2012年 2013年 (前期比)
ウェブサイトの使いやすさ
7.37
7.08
▲ 0.29
財務・決算情報の充実度
6.32
6.40
0.08
企業・経営情報の充実度
6.09
6.30
0.21
情報開示の積極性・先進性
5.94
5.74
▲ 0.20
総合得点
6.48
6.43
▲ 0.05

※4つのカテゴリのより詳細な説明については、「ランキングの調査手法」を参照いただきたい。

総合得点は6.43点と、残念ながら前回比0.05点の減少となった。

次に4つの評価カテゴリごとのスコアを追ってみる。まず、前回比で平均スコアが増加したのが「財務・決算情報の充実度」「企業・経営情報の充実度」だ。これらは、IRサイトや会社サイト上にあるべき基本コンテンツを評価する二大カテゴリである。前者ではディスクロージャ資料や決算ハイライトや財務情報など、主に定量的情報の充実度を評価する。後者は企業やビジネス、経営方針・戦略、株主総会、そしてガバナンスを含むESG(環境・社会・ガバナンス)情報など、主に定性的な情報の充実度を評価する。とくに企業や経営に関する情報の掲載が大きく進展していることがうかがえる結果となった。

他方、ウェブサイトのユーザビリティなど、使いやすさを全般的に評価する「ウェブサイトの使いやすさ」は、前回に引き続き平均スコアを下げてしまった。しかも、その下げ幅は拡大している。タブレットなどでの利用を考慮した調査体系の見直し(厳格化)に加え、情報を追加することによるナビゲーション体系の乱れなどが要因だ。

また、個人投資家をはじめとしたターゲット別IR戦略コンテンツ、あるいはストリーミングなどに加え、昨今話題のソーシャルメディアやスマートフォン対応など、発展的な取り組みを幅広く評価する「情報開示の積極性・先進性」も平均スコアを大きく下げている。インターネット環境の急激な変化になかなか追いつけていない(あるいは、様子見の)サイトが多いことがうかがえる。

洗練される「ガバナンス」と「事業・戦略」情報

上記の4つの評価カテゴリは、それぞれ5つずつの「サブカテゴリ」と呼ばれるより詳細な評価項目群から導き出されている。その詳細スコアと変化を図示したものが、下図である。

「ウェブサイトの使いやすさ」カテゴリを構成するのが最初の5つのサブカテゴリだ。「メニューとナビゲーション」「デザインとアクセシビリティ」において、平均スコアを下げる結果となっている。前述のとおり、調査項目の見直し、情報追加によるナビゲーションの乱れなどが主な要因である。

「財務・決算情報の充実度」カテゴリを構成するのが、続く5つのサブカテゴリである。「ディスクロージャ資料」以外の4サブカテゴリのすべてで平均スコアを上昇させている。業績ハイライト情報の充実や、アニュアルレポートのオンライン化によるHTMLコンテンツの増大などが大きな要因だ。

「企業・経営情報の充実度」カテゴリを構成するのが、「会社情報」から「株主総会」までの5つのサブカテゴリである。こちらも全体的に上ブレしていて、コーポレートガバナンスに関する詳細情報(社外役員や報酬など)の掲載、経営方針や戦略などのコンテンツの工夫(数値+具体的な打ち手の説明、オンラインアニュアルレポート等を活用した経営計画の進捗の説明)、株主総会に関する情報開示などの進展が見て取れる。

そして、「情報開示の積極性・先進性」カテゴリを構成するのが最後の5つのサブカテゴリだ。今回、ソーシャルメディア関係の調査項目を補充した「メディア・リレーションズ」、スマートフォンをはじめとした直近のインターネットトレンドに関する項目を追加した「Web技術の活用」の部分で大きくスコアを落としている。急激な環境変化に対応しきれていない現実が垣間見える。

増える情報、消えゆく個性

ところで、全体的に個性的なリニューアルが減り、IRサイトの同質化が進んできている点は気がかりである。優秀サイトを模倣、参考にしながらコンテンツやサイト構成を改善することが多いと思われるが、そこに自社独自の個性や特徴の追加や工夫が少なく、結果的に単なる均質サイト、コピーコンテンツに終わってしまうケースが多くなってきたことが原因である。

これでは企業のことを投資家に正しく理解してもらうというIRサイト最大の目的を達成することができず、体裁が整っているだけで何も伝わらないサイトで終わってしまう危険性がある。ユーザーを満足させるIRサイトを構築するためには、自社の特徴や強み・弱み、将来への経営方針などを踏まえたストーリー展開とコンテンツ、ウェブ戦略に合わせた適切な情報構造とデザインが求められる。企業理解を深化させるIRサイトを実現させるためのより一層の工夫を期待して、「IRサイトランキング2013」の総括としたい。