IRサイトランキング2012:総括投資家の不安を払拭すべく改善を続けるIRサイト

2012年04月25日

混迷する政治、低迷する国内景気に加え、欧州にくすぶる財政問題―。一進一退の展開が続く資本市場は不安材料ばかりだ。「Gomez IRサイトランキング2012」は、そんな中で発表された。しかし、ことウェブのIRに関しては停滞することなく、むしろそんな不安を吹き飛ばすかのように、全体的な改善が進んでいることが明らかになった。IRサイトにどのような改善傾向が見られたのか。今回のIRレポートでは、全体的な趨勢を総括してみよう。

予選調査対象は過去最低を更新

当社が行うIRサイトランキングでは、全上場企業を対象にした「予選調査」を行う。これは一定水準以上のクオリティをもつIRサイトを選定するための調査であり、IRサイトに最低限掲載されるべきコンテンツ、および、最低限のユーザビリティを確保するための施策から構成される30項目ほどのチェックリストにもとづいて行われる。

2012年3月時点の調査では、この予選調査の対象は3,535社となり、過去最低の数となった。前回比で79社の減少である。新規上場は復調してきたものの、子会社等の合併やMBOなどによる上場廃止の動きに歯止めがかからない。

他方、上場企業数の減少に対して、予選調査を通過したノミネート企業の数は650社となった。なんと、前回比で44社の増加である。幅広い企業において、基本的なコンテンツの追加などが行われたことがうかがえる。

ノミネートの業種別内訳は、下の表1のとおり。ノミネートが多い業種は「情報・通信業」「サービス業」「電気機器」の順で、母数の大きい業種が並んでいる。ただ、前回比での増減というフローの部分に着目してみると、サービス業の14社増、情報・通信業の9社増に続いて、機械の5社増、食料品、輸送用機器の4社増、そして陸運業の3社増と、今まであまり目立たなかった業種でもノミネート数の増加が散見される。

業種 2011年 2012年 (前期比)
水産・農林業
4
3
1↓
鉱業
4
4
0
建設業
19
19
0
食料品
25
29
4
繊維製品
5
7
2
パルプ・紙
3
4
1
化学
32
33
1
医薬品
17
19
2
石油・石炭製品
7
7
0
ゴム製品
5
5
0
ガラス・土石製品
3
3
0
鉄鋼
8
7
1↓
非鉄金属
10
12
2
金属製品
10
11
1
機械
31
36
5
電気機器
66
65
1↓
輸送用機器
16
20
4
精密機器
12
11
1↓
その他製品
17
18
1
電気・ガス業
13
14
1
陸運業
7
10
3
海運業
4
4
0
空運業
1
1
0
倉庫・運輸関連業
4
5
1
情報・通信業
76
85
9
卸売業
40
37
3↓
小売業
35
35
0
銀行業
23
21
2↓
証券・商品先物取引業
13
10
3↓
保険業
5
7
2
その他金融業
13
15
2
不動産業
22
23
1
サービス業
56
70
14
合計
606
650
44

表1 業種別ノミネート数の内訳

市場別で分類したものが、下の表2である

市場 2011年 2012年 (前期比)
東証1部(大証1部)
480
513
33
東証2部
18
26
8
ジャスダック
86
84
2↓
マザーズ
21
25
4
その他
1
2
1
合計
606
650
44

表2 市場別ノミネート数の内訳

「IRサイト優秀企業」は過去最高の140社に増加

続いて、予選調査を通過したノミネート企業(今回は650社)を対象に、292項目からなるスコアカードを用いてさまざまな角度からスコアリングを行う。このスコアリング調査で、総合得点6.00以上(上限は10.00点)の企業を弊社では「IRサイト優秀企業」として選定している。

今回、この「IRサイト優秀企業」が140社となった。前回比で17社の増加であり、過去最高の選定数である。内訳は、新規の選定、および改善による再選定が27社、逆に上場廃止を含む脱落は10社。差引き17社の増加である。さまざまな企業がIRサイトの改善に力をいれ、それを実現していることがうかがえる結果である。

優秀企業サイトの業種別内訳は、下の表3のとおりである。受賞サイト数が多い業種は「電気機器」「情報・通信業」そして「化学」である。こちらも前回比増減に着目してみると、情報・通信業の4社増、電気機器の3社増に続き、化学、非鉄金属、機械、その他製品、そして卸売業の2社増という具合に、幅広い業種で新たな選定企業が出現していることがわかる。

業種 2011年 2012年 (前期比)
水産・農林業
1
1
0
鉱業
1
1
0
建設業
0
0
0
食料品
7
7
0
繊維製品
3
2
1↓
パルプ・紙
0
0
0
化学
8
10
2
医薬品
6
7
1
石油・石炭製品
3
3
0
ゴム製品
0
0
0
ガラス・土石製品
3
2
1↓
鉄鋼
0
0
0
非鉄金属
2
4
2
金属製品
0
0
0
機械
4
6
2
電気機器
19
22
3
輸送用機器
4
5
1
精密機器
2
2
0
その他製品
2
4
2
電気・ガス業
3
2
1↓
陸運業
2
2
0
海運業
2
3
1
空運業
0
0
0
倉庫・運輸関連業
0
0
0
情報・通信業
12
16
4
卸売業
7
9
2
小売業
4
5
1
銀行業
7
4
3↓
証券・商品先物取引業
4
4
0
保険業
5
6
1
その他金融業
2
3
1
不動産業
4
5
1
サービス業
6
5
1↓
合計
123
140
17

表3 業種別IRサイト優秀企業の内訳

市場別では引き続き東証1部の選定が多い。一方、ジャスダックは1社増の4社で、マザーズを含む新興市場上場企業からは5社選定されている。

市場 2011年 2012年 (前期比)
東証1部(大証1部)
118
135
17
東証2部
1
0
1↓
ジャスダック
3
4
1
マザーズ
1
1
0
その他
0
0
0
合計
123
140
17

表4 市場別IRサイト優秀企業の内訳

そして、前回同様、2012年調査においても、8,00点以上を「金賞」、7.00点以上を「銀賞」、6.00点以上を「銅賞」として優秀企業を選別した。内訳は以下のとおりである。全階級での底上げが実現されている。

優秀企業内訳 2011年 2012年 (前期比)
金賞(8.00以上)
8
10
2
銀賞(7.00以上)
33
37
4
銅賞(6.00以上)
82
93
11
合計
123
140
17

表5 ランク別IRサイト優秀企業の内訳

総合ランキング上位200社の平均スコア―「ウェブサイトの使いやすさ」は曲がり角?

当ランキングでは、スコアの高い上位200社をウェブサイトで公開している。このとくにウェブサイトに力を入れている上位サイトのトレンドを見るために、TOP200サイトの平均スコアを眺めてみると、興味深いことがうかがえる。下の表6がその平均スコアである。

TOP200 2011年 2012年 (前期比)
ウェブサイトの使いやすさ
7.40
7.37
0.02↓
財務・決算情報の充実度
6.10
6.32
0.22
企業・経営情報の充実度
5.87
6.09
0.21
情報開示の積極性・先進性
5.75
5.94
0.19
総合得点
6.35
6.48
0.13

表6 上位200社の各カテゴリ平均スコアの変化

ご覧のとおり、総合得点の平均値は0.13点増の6.48点となった。その内訳を見てみると、コンテンツ面の改善が目立つ。「財務・決算情報の充実度」「企業・経営情報の充実度」の両カテゴリはそれぞれ6.32点、6.09点であり、増加幅はそれぞれ0.22点、0.21点。減少に転じた前回とは打って変わって大きく上昇し、過去最高の平均スコアを更新した。また、先進的な機能や、基本的なディスクロージャの一歩先を行く積極的なコンテンツ展開を評価する「情報開示の積極性・先進性」も5.94点となり、前回比0.19点の増加であった。

ところが、それらを支えるウェブサイトのユーザビリティを評価する「ウェブサイトの使いやすさ」の平均スコアが今回、はじめて減少に転じた。平均スコア自体は7.37点と高い水準であり、0.02点減という微減ではあるが―。従来から危惧されていたことではあるが、時間とともに増え続ける情報、多様化する情報開示形態に対して、IRサイトの基本構造が追いついていけていない可能性が否定できなくなってきた。ページ構成も同様だ。使いやすさとコンテンツのバランスという視点が今まで以上に欠かせなくなってきたようだ。

どのコンテンツが伸びているのか?―サブカテゴリ平均スコアの変化

最後に、総合得点を構成する20のサブカテゴリの上位200社平均スコアの変化をみてみよう(図1)。「財務・決算情報の充実度」のカテゴリでは、「業績ハイライト」や「セグメント情報」という(PDFではない)HTMLで閲覧可能な決算情報部分の改善が目立つ。アニュアルレポートなどのディスクロージャ資料のHTML化が一役買っていることを付言しておこう。また、「決算プレゼンテーション」では、発言要旨や質疑応答、補足資料など、周辺情報の開示強化が進んでいる。

「企業・経営情報の充実度」のカテゴリでは、「戦略とコア・コンピタンス」および「株主総会」に関するコンテンツが平均スコアを伸ばしている。株主総会情報は前回から引き続き高い伸びとなっている。

「情報開示の積極性・先進性」では、「ウェブ技術の活用」「情報発信の積極性」での改善が目立つ。個人投資家向けなど、情報をわかりやすく編集してサイト上に公開する動きは引き続き活発に行われている(これは「情報発信の積極性」の主要評価ポイントである)。「英語による情報開示」も同様だ。ところで、「メディア・リレーションズ」は前回比で減少した。今回、ソーシャルメディアに関する調査項目を追加したことが影響している。この部分への対応は、まだまだこれからの課題といえよう。