TOBとIRサイト

2010年9月1日

世界的にM&Aが盛り返す動きを見せている。BHP Billiton社によるPotash Corporation社に対するTOB、韓国石油公社によるDana Petroleum社に対するTOBをはじめ、Intel社やHewlett Packard社など、業界のジャイアントの動きも活発である。

経営からの「メッセージ」

otash社の会社サイト(http://www.potashcorp.com/)を訪れると、次のメッセージが目に飛び込んでくる(2010年8月30日時点)。

PotashCorp Rejects BHP Billiton's Unsolicited Proposal

実に明快なメッセージだ。TOBに関心をもって訪れたすべてのユーザーに対して、明確に「拒否」の姿勢を伝えている(ちなみに、IRサイトのトップページにも、同様のメッセージが記載されている)。

とはいえ、ただ「拒否」と書いてあるだけでは、メッセージとしてのインパクトはあっても、何の説明にもならない。むしろ、サイト冒頭でこれだけ強烈な先制(宣誓?)パンチを放たれてしまうと、なぜTOBを拒否するのか、その点について深い説明が欲しくなるところだろう。PosathCorp社は、このあたりの説明責任も徹底している。メッセージの下には、「Replay Webcast」というリンクが置かれている。この先には、TOBに対する経営の考え方を説明するためのミーティング関連資料が置かれている。音声配信や説明用スライド、プレゼンテーションのScriptやQ&A内容もあり、すべてのユーザーが会社や経営者の考えを知ることができるよう、徹底した情報公開が行われている。

ちなみに、スライドはHTML版とPDF版の双方を利用できる。多彩でアクセシブルな情報開示姿勢も特徴的だ。

参照しやすくする仕掛けと仕組み

企業側が情報を出しても、それがユーザー側に気づかれない限り、そして読まれない限り何の意味も価値も持たない。伝えたい情報がユーザーの目に止まるような配列と構造が求められる。

また、TOBの場合は、買収提案額の引き上げなどの急な展開によって、関連するニュースリリース等の情報が積み上がっていく可能性もある。このとき、関連する情報のみをフィルタリングできたり、一箇所に集約されていたりすると探しやすい。

そこで再びPotashCorpサイトを見てみよう。会社サイトトップページの下部を見ると「Update: BHP Bid」という大きな領域が目に入ってくる。これで大半のユーザーはこの案件に関する最新情報があることが推測できるはずだ。そして、このリンク(Read more)先には、今回のTOBに関するニュースリリースなどの関連情報が集約された特設ページが展開されている。投資家や利害関係者に宛てたレターやその後の展開など、時間とともに積み上がる情報を一箇所で参照できるようになっている。

投資家以外の「利害関係者」への配慮

そして、利害関係者全体への対応について考えてみたい。TOBでは株主や投資家が中心に話が展開されるが、その影響は従業員や取引先など、幅広い利害関係者に及ぶ可能性が高い。とくに従業員については、雇用や(場合によっては)自社の持ち株などで直接的に影響を受ける。(敵対的TOBの場合はとくに重要であるが)買収を仕掛ける側も防衛する側も、その後の成功を収めるためにも、買収(およびその賛否)に対する考え方や意図・目的をしっかりと伝える必要があるだろう。

PotashCorpサイトには、上述のTOB特設ページに「Customer」や「Employee」などの利害関係者別の情報フィルタ機能を持たせたり(今のところさほど情報が多いわけではないが)、Employee Letterを掲載したりして、配慮を見せている。

まとめ:利害関係者の賛同を得るために

TOBに限らず、株主や投資家に経営行動の意図を正確に理解してもらい、共感を得て、賛同してもらうためにIRサイトが貢献できることは数多い。文章や動画などで利害関係者向けのメッセージを発信したり、アナリスト向けミーティング等による資本市場との対話の場を設け、それをウェブで幅広く配信したりすることはもちろん、それを見てもらうためにトップページを工夫する、特設ページを作るなどして、すべてのユーザーに情報を行き渡らせるための仕掛けも有効だ。

インターネットが生活に根づいた現在、柔軟にIRサイトを活用できる企業こそが、さまざまな利害関係者の共感を得ることができるのではないだろうか。